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くぅ、本日また目が腫れに腫れて会社を休みました。あんな酷い顔で外に出れるかいッ!!今の時期で良かった。明日には元に戻ってますように・・・。

で、急遽お休みになったので、またもやドールブログを更新しましたよ。今回頑張った。無駄に時間と労力を使い切りました。どんな明瑚さんでも許せる方はこちらよりどうぞv

そして、梵弁編③up。ようやく二人接触。ちっさい子は書いてて楽しいですねぇv



梵弁編③(ダテサナ)


朝、米沢城ではありえない早さに起こされ、梵天丸は本堂の掃き掃除をさせられた。客人扱いだと思っていたが、どうやらそれは甘かったらしい。それでも慣れぬ梵天丸には簡単で楽な務めを回しているのだという。確かに暦では春とはいっても、早朝ともなると背筋から寒気が襲う。室外や水仕事でないだけ、梵天丸の割り当てられた務めは楽だといえよう。ただいつまでそうであるか。
どたばたと慣れた様子で走っていく3つの後頭部を生温い目で梵天丸は見送った。濡れて飴色に変わった廊下が朝日を受けて輝いている。
(…………)
奥州権力者の嫡男である自分が、長い廊下を頭をつるっと丸めた小僧たちに混ざって、雑巾掛けをする日もそう遠くはなかろう。
(絶対ぇ、髪は落とさねぇからな)
己の頭の形に自信がないわけではない。梵天丸を母の代わりと溺愛する乳母が、乳飲み子であった自分を数刻に一度寝返りさせるという手間を掛けていたというのだから、己の後頭部が真っ平であることはないだろう。
念のためぺたぺたと梵天丸は後頭部を手の平で確認した後、さっさと掃除を終わらせにかかった。
敵国の総大将、遠目からでも見ることが叶うというなら御の字だ。期待はしていないが真田家の嫡男というのも暇潰しくらいにはなるだろう。さすがの梵天丸も、木刀すら握ったことのないような小僧ら相手を叩きのめすことは躊躇われる。聞けば武士の子。問題ない。
「梵天丸殿。そこが終わりましたらこちらもお願いしたいのですが」
ほうきを持ったまま壁にもたれ掛っていた梵天丸に、汚れた雑巾を持った小僧が声を掛けてきた。
「ああ?」
甲斐の虎の気に入りを、どう熨してやるかを算段していた梵天丸はその気迫のまま、相手を威嚇する。
「え、あ、まだ終わっていないんでしたら、いいんですけど……」
梵天丸よりいくつか年上だろうと思われる小僧が、彼の気迫に押された様に言葉が尻つぼみになってゆく。
「誰も終わってねぇなんて言ってねぇだろ。ここはもう終わった」
次はどこだ?と尊大に言ってのけると、梵天丸は次を促した。
彼の導師となった虎哉は、あれでいて口煩い。梵天丸も彼を師と仰ぎ、ここでの生活を無駄にしない為にも、やれと言われたことはひとまずやってやる。何もせずして口先だけで虎哉に勝てるとは梵天丸も思わない。己でまず為した上でそれが必要なのかそうでないのかを判断してからでなければ意味がない。面倒だが、やりたくないからしないではまず、虎哉は納得しないのは短い付き合いでも、梵天丸には分かっていた。
新しい持ち場まで案内され、黙々と本尊の阿弥陀像を背にほうきを動かす。あらかた掃き清めたところで、また、先ほど声を掛けてきた小僧が梵天丸を呼びに来た。
その頃になってようやく寒さも弱まり、皆は本堂での読経をこれから始めるらしく、朝餉までは自由にして良いとのこと。梵天丸は迷わず二度寝をするために宛がわれた部屋へと戻っていった。


疲れた身に二度寝は至福。梵天丸は畳の上にごろりと横になり、寝入っていた。読経は半刻ほどと聞いていたが、その刻限はとうに過ぎ実際のところ朝餉も既に終わっていた。それでも長旅の疲れは存外しつこいらしく、右側を畳に押し付け、明かりを受ける左側の睫はぴくりとも動かない。そんな折り、ガサリと障子の外で音がした。
梵天丸の眉が寄る。寝がえりを打とうとして、さらにガサガサと激しく葉の擦れる音で目を覚ました。瞬時に身を起こし外をうかがう。これだけ音を立てている正体が刺客だとは思わないが、流石に何の警戒もなしに飛び出ていくことは憚られた。
一呼吸おいて梵天丸は障子を開け放った。
「!」
梵天丸はその光景に目を開いてぎょっと息を呑みこむ。
一丈ほど先に赤い小袖を着た童が必死に木にしがみ付いていたのだ。地上まではゆうに一丈以上ある。当たり前だ。梵天丸たちの部屋は2階。それと同じくらいの高さに身を置いているのだ。子供が身動きするたびに枝は揺れ緑の葉がぱらぱらと落ちてゆく。
梵天丸は絶句したあと、咄嗟に叫んでいた。
「そこで何してやがる!」
小さな背がびくりと揺れる。ゆっくり振り返って見えた顔は、前髪を真っ直ぐ切り揃えられた、大きな眸が愛らしい童女のものだった。
その眸が梵天丸を捉えてすぐ、
「うわ!」
足がずるりと滑って、小さな体が傾いだ。咄嗟に両腕で幹にしがみつく。
「いいい、いきなり声をかけられるな!落ちるかと思ったではないか!」
童女は真っ赤な顔をし甲高い声で叫ぶと、ちらりと下を見た。見る間にその顔は真っ青になってゆく。
「怪しいヤツに誰何するのは当然だろう」
「それがしは怪しくなどない!」
「じゃあ、何やってんだアンタ」
睨みつけてくる相手をじっと眺めながら、梵天丸はにやりと笑った。勿論、この童女が怪しい者だなんて思ってはいない、ちょっと付き合ってやろうという気になったのも、ここが米沢城でないからだろう。
「うぐいすの雛が巣から落ちておったから、戻してやっただけでござる」
童女が指さす場所を見れば、確かにうぐいすの巣がある。まだ孵化していない卵もあるようで、木の実のような赤茶色の卵が数個と、大きさの違う雛が2匹見えた。
「落ちた雛を戻してやって、アンタが落ちてたら世話ねぇな」
「そ、それがしは落ちたりはせん!」
「だったら早く降りたらどうだ。用は済んだんだろう?」
梵天丸は窓の桟に両肘をつき、微動だにしない童女の傍観の体勢に入った。
「何をしておる」
「ああ?アンタを見てる」
「見んでいい」
「もしかして降りれねぇとか?」
ぐっと息を詰める気配がして、梵天丸はくつくつと笑う。もしかしなくても、童女が木から降りれないことなど最初から分かっていたが、どうやら相手はそれを知られたくなかったらしく、
「そんなことある訳なかろう!」
大きな眸を吊り上げて叫んだ。その瞬間、手をついていた幹の皮がずるりと剥がれる。体勢を崩した体が中へと傾いだ。
「うわ!」
「!」
すんでのところで両腕を幹に絡ませ、幹にぶら下がる。ぱらぱらと皮と葉が下へと落ちていった。さすがの梵天丸もその光景に心の臓がとびあがる。
「何やってんだ、本当に落ちるぞ!」
「貴殿がそれがしを侮辱するからでござろう!」
身を乗り出して叫ぶ梵天丸に、顔を真っ赤にした童女もまた叫ぶ。
「女がしゃしゃり出て来るからこうなんだ!ここには男手なんていくらでもいるだろうが!」
「それがし女ではござらん!」
「ああ?!」
必死にぶら下がる姿はどう見ても童女のもので、ふっくらした頬にくるりと丸い眸、切り揃えられた髪は肩下までさらりと長い。そして何より紅の小袖には小花があしらわれていて、梵天丸はこの緊迫したなか頭の天辺から爪先まで視線を走らせていた。確かに女の割りには裾から伸びた足はすらりと細くあるかもしれないとは思ったが。
「とにかく、足場を探せ!いつまでもそうしてらんねぇだろ!」
梵天丸は疑問を振り切るように、今は童女、もとい童を叱咤する。
「ど、どこにあるのか分かり申さん!」
ぎゅっと眸をつぶって童が返す。
「馬鹿か!眸つぶってどうする!ちゃんと見やがれ!」
「嫌でござるー!」
「見ねぇと降りれねぇだろうが!アンタ落ちたいのか!」
「それがし、高いところは苦手でござる!!」
「威張んな!」
当初の虚勢はどこへ行ったのか、威勢だけはそのままに童が弱音を吐きだす。
梵天丸は「くそ!」と口汚く吐き捨てると、身を乗り出し目を凝らした。
「今からオレが言うこと聞けよ!アンタの足元の前に枝がある。そこまで足を延ばせ!」
「わ、分かり申した!」
童は梵天丸の言うとおり右足を前へと動かした。しかし、あと少しというところで足先が届かない。
「もっと、延ばせ!」
「これが限界でござるー!」
足をつっぱったまま苦しそうに童が叫ぶ。
「そんなのが限界な訳あるか!やれ!」
「何故、貴殿にそれがしの限界が分かろうか!」
「文句言わずにやれ馬鹿野郎!」
「なれば貴殿もやってみればよかろう!」
「何でオレがやらねぇとなんねぇんだ!落ちそうなのはてめぇだ!」
梵天丸のもっともな言い分に、童はううぅと悔しそうに呻ると痺れる腕に力を入れ、反動をつけて足を前へと蹴り上げた。爪先が枝に触れるが踏ん張りきれず、また中へと体が戻される。
「もう1回だ!」
「それがしに…もうちょっと…背丈があれば……!」
「贅沢言ってねぇで集中しろ!落ちたら伸びるもんも伸びねぇようになるかもしれねぇんだぞ!」
言われた通り、童はぐっと力を入れもう一度、前方の標的へと向かって体を揺らす。
「これからは甘い物ばかり食べず、佐助の言うとおり好き嫌いせずに何でも食べるように致しますぞ、うおおおおおぉお館様あああああぁ!!」
「叫ぶ元気があるなら丹田に力を込めろ!!」

気合と激励を双方繰り返したのち、どうにか足場を確保できた童を見届け、ひとまずの休息を二人は得ることができた。
「で、何でアンタそんな格好してんだ」
はぁはぁと肩で息をしながら梵天丸は、童に問いかける。その声は若干掠れていた。
普段、梵天丸はここまで大声を上げたり、騒いだりはしない。声を嗄らすほど叫んだのは初めてだ。



つづく
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